「どうぞ」 数日後、デイジーの体が安定し、予定より遅れてホテルから帰宅の途に就こうというその日。 ヤマダはデイジーにそれを差し出した。 「ありがとう」 ヤマダからメイド長経由で手渡しされた一通の手紙。 バタンとドアが閉ま…続きを読む
長編
昼と夜のデイジー 38
窓から入る日差しが明るい。 ドアが開く音がしたので起き上がってそちらを向けないかと思ったデイジーは、ゆっくり肘をベッドに付いて上体を持ち上げてみた。 が、予想通りふらついた。 「お嬢様!」 慌ててメイド長が水差しと給水器…続きを読む
昼と夜のデイジー 37
あのとき、グィーガヌス刑事には聞こえていなかったろうか? 思い切りかがんでいたし、表情も見えなかったはずだ。 帰りの馬車の中でデイジーはそう逡巡した。 天井に打ち付け始めた雨はその音を強めていく。 冷え込んで湿った風で軽…続きを読む
昼と夜のデイジー 36
ドルの家のあるあの林の途中にその病院はあった。 といっても大病院では全くない。 町の小さな診療所に、一晩二晩なら我慢できる程度のベッドがあるだけに見えた。 「ここに長期入院は無理なんじゃない?」 気になって聞くと、 「明…続きを読む
昼と夜のデイジー 35
デイジーは今日、気付いた事がある。 「…う゛〜ん…」 「…」 「…わたくしはいいと思います! この木の葉の色とか…。 それに、…ど、独創的な…この…うねるような木の幹や混ざり具合が…」 ―――――私は画家にはなれないのね…続きを読む
昼と夜のデイジー 34
ドルは教科書を机に置いた。 まるで落とすようだった。 額を大きな骨ばった右手で覆い、前髪を上に掻きあげる。 「いや…あーっと…」 そのまま天井を仰ぎ見て、両手をあわせるように自分の鼻と口を隠した。 デイジーは待った。 ド…続きを読む
昼と夜のデイジー 33
神妙な顔つきで語りだしたヤマダ。 だがデイジーにとってその言葉はあまりにも抽象的で、何をいわんとしているのか分からなかった。 そもそも普通の林も普通の家も知らないデイジーだ。 ドルの家界隈の『変なこと』を推測しようがない…続きを読む
昼と夜のデイジー 32
それは小さかったあの頃、窓の外でモップに載っている少年の思い出。 あの日デイジーの暗闇に差し込んだ光は月明かりではなかった。 少年の燃えるような真っ赤な髪は、暗がりを一瞬だけ駆け抜けるように拭い去った。 『待って』 思っ…続きを読む
昼と夜のデイジー 31
本でしか見たことがないドルの小屋…もとい家の建屋を眺めながら、薄曇のなか頂く紅茶はなかなかの味。 召使『デイジー』の腕がいいからでもあるが、家にいた時以上にくつろげているのはきっと人が程良く少ないからだろう。 気持ちだけ…続きを読む
昼と夜のデイジー 30
明くる日の午後。 デイジーは林の手前まで来ていた。 名目は森林浴、実態はドルの自宅訪問。 ホテル周辺は日差しも強いので散策は〜というのがその言い訳だ。 林というものに踏み入る事自体が初のデイジーは、昼間なのに暗がりが端々…続きを読む