長編

港のレストランへようこそ 9

 翌日。港にナム副隊長らと共に向かうと、古株の漁師が何人か覗きに来ていた。 いつもの漁に出る時間からすれば朝寝坊も朝寝坊と思っているのだろう。 俺が近づいても貧乏ゆすりしているので、だいぶ苛立っているのが分かる。 仕方な…続きを読む

港のレストランへようこそ 8

 週明けに二つとなりの大きな街からやってきた調査員は、軍の中堅どころと魔法使いのペアだった。 詰所に来てすぐその場にいた全員の前で、「コウペイ街騎士団第三部隊赤班伍長ペジェと申します」「同じくコウペイ街騎士団魔法部隊副隊…続きを読む

港のレストランへようこそ 7

 誰かがこの絵をこの日に書いたのだとしたら、このネックレスは一度ここに持ち込まれているということ。 じゃなきゃ裏の留め金なんて知りようがない。 持ち込んだ者、すなわちネックレスの持ち主。「今の持ち主は誰だ」 机に前のめり…続きを読む

港のレストランへようこそ 6

「持ち主を知っているのか?」 老婆の皺の隙間から覗いた目玉。 片目の黒目は俺のほうを向いている。もう片目は真っ白なのに、俺の何か別のもの——海の中でチリカの裸体を思い浮かべた本能的な欲望に満ちた部分——を見つめているよう…続きを読む

港のレストランへようこそ 5

 昼飯時を遅らせ店に入ると、客はまばらになりつつあった。 入ると、奥のカウンターに立つメインシェフのカイトと目が合った。 ゴマ塩の髪と口ひげ。日焼けした肌。染みだらけのコックコート。「ぎりぎりセーフだ」 デカい声は入り口…続きを読む

港のレストランへようこそ 4

—————あの女何なんだ。 夜に港に入れる岸に沿ってランプを手に持ってルースと歩く。 夜風が少し寒いこの時期、海水浴——一応、砂浜もある——しようというものはいない。 この緊急事態だから有難い限りではある。 今のところ海…続きを読む

港のレストランへようこそ 3

「うーん、なんだろうな」 肉食の魔物がいたらしき雰囲気は一応あったことに加え、魔法陣の話を報告されたランドルは首をひねった。「一応、婆に聞いてみるか」 婆とはこの街に昔からいる魔法使いだ。 腕は正直いまいちだが、知識量に…続きを読む

港のレストランへようこそ 2

 いや、あの店に行くたびに思い出している。 チリカが来だして最初のころ、夜に同僚とここに立ち寄り、一杯ひっかけたところでチリカがその同僚に声をかけたのだ。 同僚には恋人がいたから、『いや、いい。こっちの奴は?』 俺を指さ…続きを読む

港のレストランへようこそ 1

 最悪だ。今日は『いる』日か。「どしたんすか? 急に不機嫌そーっすね」「あ゛?」 昼飯時の不機嫌を同席した部下に指摘されたが 、当の部下は嬉しそうだ。 俺の不機嫌の原因が分かった上での発言。「そんな嫌いすか? いい女じゃ…続きを読む

港のレストランへようこそ プロローグ

「逃げなさい」 今いる岩場の下の水中に空いている小さな穴は、子どもしか潜り抜けられそうにない。 だから母親が自分に逃げろと言っているのは分かっていた。「でも…」「おい、ここ、見たか?」 男の声がする。甲冑の音。兵士だろう…続きを読む