長編

昼と夜のデイジー 58

森は静まり返っている。 ドルはあんなに叫んだ後なのに、自分の中にまだ揺蕩う何かが残っているのを感じ、少しずつそれをささやくように口から吐き出し続けた。 「馬鹿なこと言うなよ」 ドル自身の声は明らかに震えていた。 「私、真…続きを読む

昼と夜のデイジー 57

多少ぐらつきながら1センチ、2センチと上昇する。 何か命令しているというわけではなく、『飛びたい』と思う気持ちに連動するように動くモップ。 ―――――それが特殊なことらしいって知ったのは、教授の代筆をしだしてからだったな…続きを読む

昼と夜のデイジー 56

「ドロテオ・G・コーウィッヂ」 「はい」 「刑期満了、っと。 で、ここに入るとき持ってきた荷物はそこ。 金はあそこ」 「はい」 「全部あるか」 「はい」 「じゃ、出るぞ」 入り口まで付き添う規則だからとぼやくように言った…続きを読む

昼と夜のデイジー 55

僕がそのこと──おそらく公然の秘密──を察したことを察した召使いはそっと立ち去った。 一口飲むと、紅茶はすでにぬるくなり始めている。 にしても意外だったな。 僕が知っている姉は恋愛云々どころかお子様ランチで止まっている感…続きを読む

昼と夜のデイジー 54

『出迎えがメイド長でないこと以外に大きな違いはない』。 これが四年ぶりに帰ってきた家の玄関の第一印象だった。 父親が薬物の違法取引容疑であれこれしたという話は手紙でもらっていたけれど、寄宿学校に缶詰の僕には何ら関係がなく…続きを読む

昼と夜のデイジー 53

僕はお姫様を助けに行く途中の王子様なんだ。 お屋敷の窓のそばをモップに乗って通りすがるたびにそう言い聞かせてきた。 昔僕が住んでいた屋敷からちょっと離れたところに建っていたそのからくり屋敷。 住んでいた屋敷の部分模型のよ…続きを読む

昼と夜のデイジー 52

~~メイド長~~ いつから? 勤めだして…そうですね、確か10年目あたりから? だからもうすぐ、17、8年ってことですか。 え? 曖昧ですよ、そんなもの。 だって言いますでしょ? 十年ひと昔って。 この年ですもの。そんな…続きを読む

昼と夜のデイジー 51

メイド長はタオルをずらし、同時にデイジーの両頬を片手で掴んだまま強く握った。 指が頬に食い込み、自然、口が開く。 当然大きな声は出せない。 ─────もう一回、何とか呼び鈴を鳴らせれば。 それか何でもいい。 大きな音でも…続きを読む

昼と夜のデイジー 50

─────父親と母親の両方が同席しての夕食なんて何年ぶりだっけ? この後の予定の前哨戦のように思える沈黙。 直近の父親との夕食も喉を通らなかったが、今回もだ。 夕食の前、出される食事になにか盛られている可能性はないだろう…続きを読む

昼と夜のデイジー 49

グィーガヌス刑事らがデイジーにとっては予定調和の流れで父親の書斎を調べ出すと、召使いらは一時騒然となった。 中には今後の身の振り方を考え出した者もいたようだ。 それはそうだろう。 勤め先の主が逮捕でもされたら? 自分に濡…続きを読む