あの翌日、もうチリカはこの街を出ていた。だからひと月待った。 その間、本屋にそれらしき文献があったらと、普段立ち寄らない本屋に立ち寄ったりはした。 むやみやたらと行商に話を聞くと俺が嗅ぎまわっていることが広がるかもしれ…続きを読む
長編
港のレストランへようこそ 18
どこかに絶滅したと思われていた人魚の国が今まだあったとして、チリカがその住人か何かだったとして。―――――だから、なんだ? 法律や御触れで『人魚がいたら報告せよ!』というのはないはず。 もしかしたら大慌てで誰かに報告す…続きを読む
港のレストランへようこそ 17
砂浜の影に置かれた服はきちんと畳んでそこにあった。 アザラシの革のざらつきと柔らかなシャツの感触。 ふわりと先日チリカの首筋から薫った懐かしい香りが立ち上り、体の奥を撫で上げられるような心地になる。 抑え込むように走り…続きを読む
港のレストランへようこそ 16
この前と同じようにチリカの顔を見ないように立ち去るつもりだった。 全く動けない。魔法に掛けられたようだ。 ぼうっとしているうちに、「そぉ…」 同じようにぼんやりと呟いたチリカが俺の視界から消えるのが先だった。 振り返っ…続きを読む
港のレストランへようこそ 15
ナム副隊長とペジェ伍長の出立は、ナム副隊長の頭痛で1時間ほど遅れた以外予定通りだったという。 休暇三日のうち前半二日は寝て過ごし、残り1日用事で出た時にすれ違ったカザミ軍曹からの情報。 結局小さい街だから、休みでも仕事…続きを読む
港のレストランへようこそ 14
ナム副隊長とのにらみ合いはほんの一瞬だった。 理由はその時チリカが俺を見たから。 そのチリカにナム副隊長の視線がすぐ移ったからだった。 チリカはナム副隊長を見ながら首を横に振った。 ナム副隊長はそのまま俺を見て、訝しむ…続きを読む
港のレストランへようこそ 13
ナム副隊長の顔を見ながら、あの事件後のランドルを思い出した。 懲罰房から出た直後の俺を指さして大笑いしてきた軍の同期。間違いなくランドルとナム副隊長が別の生き物であることを感じる。 それはそれでいい酒の肴。「あの後王宮…続きを読む
港のレストランへようこそ 12
店は夜の人でごった返していた。 まだ椅子に座っている者が多いから掻きわけるといってもそこまでの苦労はない。 が、祝杯を挙げているのは俺たちだけではなく。 今日から目出度く開漁となったため、今日の日中の仕事を終えた者たち…続きを読む
港のレストランへようこそ 11
その日の夜の見回りも、昼間と何も変わらなかった。 海面は静か。海の中も魚が泳いでいる以外、危険な生き物は居そうにない。 海面から上がると、「異常なし」 ルースとペジェ伍長は岸に立ち、胸をなでおろしていた。ルースは、「何…続きを読む
港のレストランへようこそ 10
「ダメです」 『何故ですか』にしようかと迷ったが、素直になることにした。 その言葉を聞いたナム副隊長は驚いて、「何故ですか」 俺が言おうか迷ったセリフは副隊長の震える口元から飛び出した。「なんとなく気に入ってるんです。い…続きを読む